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第7話

「あ・・ドロップだ」

背景や袖にドロップが吊られると、ほんの少しのズレが目立ってくる。
一気に頭を抱えてしまった。
ドロップの中(?)で踊る本人たちは、気がつきにくいのだ。当然、そこにも涌井先生の叱責が飛ぶ。
背景や袖のドロップはほとんどが左右対称に描かれている。しかも今回アステムさんが徹夜で運んできて下さったドロップは奥行きもまた確実に描かれている素晴らしいものであった。
雪の景は・・本当にあたり一面積雪の中にいるような感覚にとらわれてしまう。

舞台の神様が、予定になかったのにドロップを必死で吊ろうとしていたのは、きっとこのためだったのだ・・・。本番当日のゲネで明らかになるより、前日に少 しでも認識できたほうが、私にとっても出演者にとってもありがたい。何も語らず、黙々とドロップを吊った舞台の神様はやっぱり舞台の神様だった(感謝)。
舞台というのは、ただ技術だけを練習すればいい・・というものではないことを
改めて、深く自分の中に刻み込んだ。

舞台に向けての練習が始まると涌井先生が重ねておっしゃることがある。
「お客様が気になるようなことをしてはならない」というようなことである。
例えば、衣裳から糸が垂れ下がっているとか、外れてしまいそうなリボンとか、前述したトゥシューズのリボンの結び目がはみ出しているとか、髪が乱れているとか・・・。つまり、お客様の気がとらわれるようなことは極力避けなければならないのである。
お客様に安心して舞台を見ていただけるように、人様を見下ろす位置に立たせていただいて舞台を務める以上、絶対の心がけなのだ。
衣裳やトゥシューズの紐がだらしないとのは、出演者の気の緩みの現れである。
また、お客様をヒヤヒヤさせるような技術も見せてはいけないし、体に力が入りすぎた踊りは、お客様を一緒に疲れさせてしまうともおっしゃる。
そうならないために、私達に出来ることは、ただひたすら練習を繰り返し技術を磨き、人様の前で踊れる凛とした精神を育てることである。

そーは思っていても、悲しいかな、私も生粋の凡人。1年365日、理想のダンサー(人間)を育てるために邁進できる筈がない・・。けれど涌井先生が鹿児島に来てくださると、どんなにへそを曲げていても、私は初心と自分の中の理想を思い出すのだ。

首を前に出さないで! 足首! 体の向き! 手の角度! 前に揃えて!手が高い!
五番! ルルベ! 肩を上げない!たくさんの人数で踊るからと言っていい加減にならない! △×*@□!$○:#×!? 

「雪」の出演者のほとんどは涌井先生のレッスンをもっとも長く受けさせていただいている。これまで「あーと」の舞台を引っ張ってきた実動隊であった。

あーーーもっと徹底的に練習させるべきだった(泣)。ありとあらゆる全てのことに注意を受けたような気がする・・。

先生の様子がいつもと違うことをお母さんたちも含めて皆感じている。
接待係のお母さんも・・なかなか近づけないでいる。
久々に怖い先生とお目にかかった。

あんなに先生がお怒りになるのだ、よっぽど上がりが悪いノダ。

初の全幕・・・時期を早めすぎた・・・かも(泣)。


つづく(次へ)


クラシックバレエ
あーとかんぱにぃ
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